拡張ビジュアル検索とは、iPhoneやMacの「写真」アプリが、写真に写り込んだ建造物や名所を識別し、あとからライブラリ内を探せるようにするAppleの機能です。写真そのものがAppleへ送られる機能ではありません。
2024年12月末に米国の開発者ジェフ・ジョンソン氏が「この設定が同意なしにオンになっている」と指摘し、2025年1月にGIGAZINEなど国内のIT系メディアも報じたことで、「知らないうちに写真が送信されているのでは」という懸念が取り上げられました。この記事では、Apple公式の説明にもとづいて、実際に何が送信されているのか、オフにしてよいのか、混同されがちな「画像を調べる」「ビジュアルインテリジェンス」と何が違うのかを整理します。
この記事でわかること
- 送信されるのは写真ではない: 端末内で作られた暗号化済みの数学的表現だけが送られ、写真・動画そのものはAppleへ渡りません。
- 使いどころ: 位置情報の付いていない写真や、背景に小さく写った名所を、名所名を打つだけで探せます。
- オフの手順と影響範囲: iPhoneは設定>アプリ>写真から切れます。オフにしても写真アプリの他の機能まで止まるわけではありません。
- 3つの機能は別物: 拡張ビジュアル検索、画像を調べる、ビジュアルインテリジェンスは目的も動く場所も違います。
- 企業が関われるのは片方だけ: 拡張ビジュアル検索はSEO施策の対象外で、働きかけられるのはビジュアルインテリジェンスの側です。
拡張ビジュアル検索とは?Apple「写真」アプリのランドマーク検索機能
拡張ビジュアル検索とは、写真に写り込んだ建造物や名所をAppleが識別し、写真アプリから探せるようにする機能です。
Apple公式の説明では、写真アプリまたはSpotlightで「金門橋」「凱旋門」のようなランドマーク名を検索すると、そのランドマークが写っているすべての写真とビデオが結果に並びます。撮影時に位置情報が記録されていない写真や、背景に小さく写っているだけの写真も対象になる点が、通常の場所検索との違いです。
3つは名前が似ていますが、動く場所も目的も違います。混同したまま設定を触ると、切ったつもりのない機能まで止めてしまうため、まずこの区別を押さえてください。
どういうときに使う?検索のしかたと使いどころ
名所が写った写真を、撮影日や場所を思い出せなくても名所名だけで探したいときに使う機能です。
使い方は、写真アプリの検索欄かSpotlightに名所の名前を入力するだけです。設定でオンになっていれば、写真に名前を付けたり、あらかじめ登録したりする手間はかかりません。
役に立つのは、次のような写真を探すときです。
- 位置情報をオフにした状態で撮った写真
- 名所が主役ではなく、背景に小さく写り込んでいる写真
- 旅行から時間がたち、いつどこで撮ったかを覚えていない写真
反対に、写真に写った植物や料理、動物が何かを調べたいときは、この機能ではなく次に触れる「画像を調べる」を使います。拡張ビジュアル検索が照合する相手はランドマークの一覧だけだからです。
Googleの機能名ではありません
拡張ビジュアル検索はAppleの機能名です。Google LensやGoogleの画像検索を指す言葉ではありません。
「拡張ビジュアル検索」で検索すると画像検索全般の解説記事が混ざりますが、Appleがこの名称で提供しているのは写真アプリのランドマーク照合だけです。Google側で近い体験を担うのはGoogle LensやGeminiで、こちらはWeb上の情報を横断して答えを返す別系統の仕組みです。
いつから使えるのか
iOS 18、iPadOS 18、macOS Sequoia以降で使えます。国や地域によっては利用できません。
これはApple公式のサポートページに記載された対応バージョンです。2025年9月15日公開の英語版の同ページ(iOS 26の提供時期)でも、対応は「iOS 18以降」、iPhoneの設定の場所は「設定>アプリ>写真」のまま案内されています。日本語圏の解説では「iOS 18.1/macOS 15.1から」と書かれることもありますが、公式表記はメジャーバージョンの「iOS 18以降」になっています。自分の端末で使えるかどうかは、次に説明する設定画面に項目があるかどうかで確認できます。
拡張ビジュアル検索をオフにする方法
iPhoneとiPadは設定>アプリ>写真、Macは写真アプリ>設定>一般から、拡張ビジュアル検索をオフにできます。
GIGAZINEなどの報道によると、この機能はアップデート後に初期状態でオンになっており、同意を求める画面は出ませんでした。報道で問題視されたのも、このオプトアウト方式です。
| 端末 | たどる場所 | 操作 |
|---|---|---|
| iPhone・iPad | 設定 > アプリ > 写真 | 下までスクロールし「拡張ビジュアル検索」のスイッチをオフ |
| Mac | 写真アプリ > 設定 > 一般 | 「拡張ビジュアル検索」のチェックを外す |
| 項目が見当たらない場合 | ― | OSのバージョンが古いか、その国・地域で提供されていない |
Appleのサポートページの案内どおり、iOS 18以降は写真の設定が「設定>アプリ」の下にあります。以前と同じ「設定>写真」をたどっても項目が見つからないのは、この変更が理由です。
オフにして大丈夫か、オフで使えなくなるもの
ランドマーク検索を使わないならオフで支障はありません。写真アプリの他の機能まで止まるわけではないからです。
オフにすると、ライブラリからランドマーク名で写真を探す精度が落ち、位置情報のない写真は名所名で引けなくなります。一方で、写真の分類や顔認識、その写真に写るものを個別に調べる「画像を調べる」、カメラをかざして検索するビジュアルインテリジェンスは、拡張ビジュアル検索をオフにしても使えます。
| 項目 | オンのとき | オフにすると |
|---|---|---|
| ランドマーク名での写真検索 | 位置情報がない写真も名所名で引ける | 位置情報が記録された写真しか引けない |
| Appleサーバーとの通信 | 暗号化された照会が送られる | この機能による照会は行われない |
| 画像を調べる・ビジュアルインテリジェンス | 使える | そのまま使える(連動して止まらない) |
| 写真の分類・顔認識・思い出 | 使える | そのまま使える |
つまり、失うのは「名所名でライブラリを横断検索する便利さ」だけです。判断に迷うなら、一度オフにして困ったら戻す、という運用で問題ありません。
写真そのものはAppleに送られる?送信されるデータの内訳
送られません。端末内で作った暗号化済みの数学的表現だけが送信され、写真も動画もAppleへは渡りません。
Apple公式のサポートページは、この機能が写真やビデオをAppleに送信することなく、またAppleがその内容を知ることなく動作すると明記しています。実際に端末とサーバーの間で何が動いているのかを、4つの段階に分けて見てください。
サーバーへ渡るのは、写真の中の一部分を数字の並びに置き換えたものだけです。しかもそれが暗号化されたまま扱われるため、Apple側は照会内容も検索結果も読めません。「フォルダの写真の位置情報を勝手に転送している」という説明がSNSで広まりましたが、これは公式の説明とは一致していません。
3つの保護技術が何を隠しているのか
準同型暗号、差分プライバシー、OHTTPリレーの3つが、送信内容と送信元の両方をAppleから隠しています。
技術名だけを並べると難解ですが、それぞれ隠しているものが違います。仕組みの詳細はAppleの機械学習研究ブログ(2024年10月24日)で公開されています。何を守る仕組みなのかで見ると理解しやすくなります。
- 準同型暗号:照会の中身を隠します。暗号を解かずに照合し、復号鍵は端末にのみ保存されるため、サーバーは中身を読めません。
- 差分プライバシー:どれが本物の照会かを隠します。本物に混ぜてダミーの照会も送り、1台の端末の動きを特定しにくくします。
- OHTTPリレー:誰が送ったかを隠します。IPアドレスやデバイスIDを伏せたまま中継し、Apple Accountとも紐づけません。
中身と送信元の両方を分けて隠す設計になっているため、Appleが「誰がどの名所を写した写真を持っているか」を知ることはできません。ただし、それでも通信が発生している以上「完全に端末内で完結しているわけではない」という批判は成立します。既定でオンにしたまま目立つ告知をしなかった点への不満は、正当な論点です。
「画像を調べる」「ビジュアルインテリジェンス」との違い
拡張ビジュアル検索はライブラリ検索、画像を調べるは写真内の識別、ビジュアルインテリジェンスはカメラや画面の検索です。
3つはどれも「写真から情報を得る」ため混同されますが、起動する場所も、対象も、必要な端末条件も異なります。
| 機能 | 主な目的 | どこで使うか | 対応 |
|---|---|---|---|
| 拡張ビジュアル検索 | ライブラリからランドマークが写った写真を探す | 写真アプリ・Spotlightの検索欄 | iOS 18・iPadOS 18・macOS Sequoia以降 |
| 画像を調べる(Visual Look Up) | 開いている写真に写る植物・動物・料理・名所などを識別する | 写真を表示した状態のアイコン | iOS 15以降 |
| ビジュアルインテリジェンス | 目の前のものや画面上のものを検索・質問・操作する | カメラ、スクリーンショット、画面上の対象 | Apple Intelligence対応端末 |
AppleのiOS 26の発表(2025年6月9日)によると、iOS 26ではビジュアルインテリジェンスがカメラだけでなくiPhoneの画面に表示している内容にも使えるようになりました。名前の似た機能が増えていますが、設定でオフにできるのは拡張ビジュアル検索のほうだという点を取り違えないでください。
企業やSEO担当が見るべきはビジュアルインテリジェンスの側
企業が働きかけられるのはビジュアルインテリジェンスの側です。拡張ビジュアル検索はSEO施策の対象になりません。
拡張ビジュアル検索が突き合わせているのは、利用者の写真とAppleが保有するランドマーク一覧です。照合はAppleのサーバーで行われ、途中は第三者が運営するOHTTPリレーを経由します。自社サイトの画像を最適化しても、この照合結果に自社が現れることはありません。「alt属性を整えれば拡張ビジュアル検索に出る」と説明している解説を見かけますが、仕組み上あり得ない話です。
一方、ビジュアルインテリジェンスは、カメラや画面に映ったものからWeb検索やアプリへ利用者を送り出します。Appleは開発者向けにApp IntentsとVisual Intelligenceフレームワークを公開しており、自社アプリのコンテンツをビジュアルインテリジェンスの検索結果に出す道を用意しています。Web側の担当者にとっては、検索の入口がキーワード入力からカメラへ広がり、画像そのものが検索の起点になる流れを押さえておく意味があります。
自社サイトの画像をどう整えるかは画像SEOの基本と手順に、検索の入口そのものが変わる流れはGoogle検索が変わる時代の集客対策にまとめています。
拡張ビジュアル検索に関するよくある質問
本編で扱いきれない周辺の疑問をまとめました。
Q. 「強化ビジュアル検索」と「拡張ビジュアル検索」は別の機能ですか?
A. 同じ機能です。英語名 Enhanced Visual Search の訳し方が分かれているだけで、Appleの日本語表記は「拡張ビジュアル検索」です。設定画面でもこの名称で表示されます。
Q. 拡張ビジュアル検索をオフにするとiPhoneは軽くなりますか?
A. 「オフにしたら動作が軽くなった」「発熱が収まった」という個人の投稿はSNS上にあります。ただしAppleが動作の重さ・発熱・バッテリー消費との因果関係を公式に示しているわけではありません。改善するかを確かめる目的で一時的にオフにして比べることはできますが、原因だと断定はできません。
Q. 位置情報はAppleに送られますか?
A. 送られません。送信されるのは写真から切り出した領域を数学的表現に変えて暗号化したもので、位置情報そのものではありません。そもそもこの機能は、位置情報が記録されていない写真からランドマークを見つけるためのものです。
Q. iCloud写真をオフにしていれば拡張ビジュアル検索も無効ですか?
A. 別の設定です。iCloud写真は写真をAppleのサーバーへ同期するかどうかの設定で、拡張ビジュアル検索は端末内で作った暗号化データを照合に出すかどうかの設定です。止めたい場合は写真アプリの設定から個別にオフにしてください。
Q. 自社の商品画像を拡張ビジュアル検索に出すことはできますか?
A. できません。照合先はAppleが保有するランドマークの一覧だからです。カメラ経由で自社の情報に到達させたい場合は、ビジュアルインテリジェンスやGoogle Lensなど、Web検索へつながる仕組みの側で対策します。
Q. 一度オフにしたあと、またオンに戻せますか?
A. 戻せます。iPhoneは設定>アプリ>写真の同じスイッチを、Macは写真アプリ>設定>一般の同じチェックを入れ直すだけです。オフで困ることがあれば、そのときに戻せば足ります。

